人生の最期を迎えるとき、誰しもが残された家族のことを考え、不安や心配を感じることでしょう。特に、遺産分割に関する問題は、家族間の争いの種となり、親しい間柄だった者同士が対立する原因になりかねません。
そんな中、遺言書は自分の意思を確実に伝え、遺産分割のトラブルを未然に防ぐための重要な手続きです。
本記事では、遺言書を作成する重要性や具体的な方法、さらに家族の円満な相続を実現するためのポイントについて詳しく解説します。
あなたの意思をしっかりと伝え、家族に平和と安心を遺すために、遺言書の作成を検討してみてください。
トラブルを防ぐために遺言書を書く必要がある場合

不動産が多い場合
不動産は分割が難しく、価値の評価も複数の基準があるため、遺産分割の際にトラブルになりやすいです。
そのため、不動産が多い場合には、遺言書であらかじめ具体的な分割方法や受け取る人を明示することが重要です。これにより、相続に関する争いを未然に防ぐことができます。
子どもたちの兄弟仲が悪い場合
兄弟姉妹間での仲が悪い場合、相続に関する意見の対立が生じやすいです。
遺言書で公平な分割方法を示すことで、争いを防ぐことができます。また、特定の子どもに対して特別な配慮が必要な場合も、遺言書でその意図を明確にすることができます。
子どもがいない場合
子どもがいない場合、配偶者と他の親族(親、または兄弟姉妹)が相続人となりますが、その範囲は広くなりがちです。特に兄弟間の相続は話がまとまらないことが多いです。
遺言書を作成しておくことで、誰にどの財産を相続させるかを明確にし、不要なトラブルを防ぐことができます。
再婚などで違う相手との間の子どもがいる場合
再婚などで前の配偶者との間に子どもがいる場合や、現在の配偶者との間に子どもがいる場合、それぞれの子どもたちの相続分をどのように分けるかが重要です。
特に、相続人同士が面識がない場合が多く、話し合いが円滑に進まないという問題が生じやすくなります。
このようなトラブルを防ぐためには、遺言書を作成し、相続分を明確にしておくことが有効です。
農家・個人事業主の場合
農業を営んでいる場合や個人事業主の場合、事業用資産が多く含まれることが一般的です。これらの事業用資産が分散してしまうと、事業の継続が困難になることがあります。
遺言書を作成することで、事業用資産を特定の相続人に継承させ、事業の一貫性を保つことができます。
籍を入れていない事実婚の相手がいる場合
法律上の婚姻関係にない事実婚のパートナーには、法定相続権がありません。
そのため、パートナーに財産を遺す場合は、遺言書で明示する必要があります。
遺言書を作成しないままでは、長年共に過ごしてきたにもかかわらずパートナーが遺産を受け取ることができないという状況が発生します。
これを防ぐためにも、遺言書で具体的にどの財産を誰に遺すかを明記し、法的にその意思を確実に実現することが重要です。
遺言書でできること

相続、財産の処分、遺贈
遺言書により、誰にどの財産を相続させるかを明確に指示することができます。不動産や現金、株式などの具体的な財産を指定して相続させることが可能です。また、特定の財産を特定の相続人に相続させることで、遺産分割に関する争いを防ぐことができます。
さらに、遺贈も遺言書で行うことができます。遺贈とは、相続人以外の第三者に財産を遺すことを指します。
例えば、親しい友人や慈善団体に財産を遺したい場合、遺言書でその旨を明確に記載することが必要です。
遺贈を活用することで、自分の意思をより広く実現し、特定の人々や団体に対する感謝や支援の気持ちを伝えることができます。
身分に関すること
遺言書では、子の認知や、未成年の子どもに対する後見人・後見監督人の指定を行うことも可能です。特に未成年の子どもがいる場合、両親が亡くなった後の子どもの生活を安定させるために、後見人の指定は重要な要素となります。
祭祀に関すること
日本では、先祖を祀る祭祀財産(仏壇や墓など)を誰が引き継ぐかを遺言書で指定することができます。祭祀を受け継ぐ人を明確にしておくことで、家族間でのトラブルを防ぎ、先祖の供養が滞りなく行われるようにすることができます。
遺言執行者の指定
遺言書により、遺言の内容を実行する遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者は、遺言書の内容に基づき、財産の分配やその他の手続きを行います。遺言執行者を指定しておくことで、遺言の内容が確実に実行されるとともに、相続人間の争いを防ぐことができます。
遺言書の種類

遺言書は、個人の意思を明確に示し、相続に関するトラブルを防ぐための重要な文書です。遺言書にはいくつかの種類がありますが、一般的には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つの方式が主に用いられます。それぞれの特徴と利点について解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者自身が全文を手書きで作成する遺言書です。この方式は一人で気軽に作成でき、費用もかかりませんが、いくつかの注意点があります。
- 財産目録以外全文手書き:遺言書の全文、日付、氏名をすべて遺言者が自筆で書く必要があります。パソコンでの作成や代筆は認められていません。財産目録のみパソコンでの作成や登記事項証明書の写しなどが認められています。
- 日付・氏名・押印:日付の記載、遺言者の署名と押印が必要です。これらの記載がないと無効になります。
- 保管:遺言書の保管は自己責任となり、紛失や改ざんのリスクがあります。法務局の遺言書保管制度を利用することもできます。

自筆証書遺言は手軽に作成できる一方で厳格なルールがありますので、実際にはハードルが高い作成方法になります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書です。この方式は、公証人が遺言者の意思を確認し、法律に則った形式で遺言書を作成するため、信頼性が高いのが特徴です。
- 公証人の関与:遺言者が公証役場で公証人に遺言内容を伝え、公証人が遺言書を作成します。公証人が内容を確認し、遺言者と証人が署名します。
- 証人の立会い:作成時に2人以上の証人が必要です。証人には一定の要件が求められます。相続人などの利害関係者は証人になれません。
- 保管:遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。遺言書の内容も秘密に保たれます。
公正証書遺言は費用がかかりますが、信頼性が高く、安全に保管されるため、争いを予防するためには非常に有効です。
トラブルを防ぐ遺言書の書き方

遺言書を作成する際には、家族間のトラブルを防ぐために注意すべきいくつかのポイントがあります。以下に、遺言書の作成時に特に注意すべき事項を挙げます。
争いが予想される場合は公正証書で
相続に関して争いが予想される場合は、公正証書遺言の作成をお勧めします。公正証書遺言は、公証人が関与し、法的に有効な形式で作成されるため、信頼性が高く、遺言の内容が争われるリスクが低くなります。公正証書遺言は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
遺留分を侵害しない
遺留分とは、法律によって保障された相続人の最低限の取り分です。
遺留分を侵害する遺言書を作成すると、相続人が遺留分侵害額請求を行う可能性があります。これにより、遺言の内容が争われることになります。遺言書を作成する際には、遺留分を考慮し、法定相続人の権利を尊重することが重要です。
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを行う人物です。遺言執行者を指定することで、遺言の内容が確実に実行されるとともに、相続人間の争いを防ぐことができます。遺言執行者は信頼できる人物を選び、遺言書にその旨を明記しておきましょう。
遺産の記載漏れがないようにする
遺言書を作成する際には、すべての遺産を漏れなく記載することが重要です。記載漏れがあると、その部分については遺産分割協議が必要となり、相続人間での争いが発生する可能性があります。遺産の一覧を作成し、遺言書にすべての財産を記載するようにしましょう。
相続させる財産を特定する(特定財産承継遺言)
特定財産承継遺言とは、特定の財産を特定の相続人に相続させることを明示する遺言書です。これにより、遺産分割協議が不要となり、相続人間の争いを防ぐことができます。例えば、具体的な不動産や金融資産を明示し、誰に相続させるかを遺言書に記載しておくことが有効です。
「付言」で思いを伝える
遺言書において「付言(ふげん)」とは、遺言者が自由に残すことができるメッセージのことを指します。付言には法的効力はありませんが、遺言者の思いや理由を伝える重要な手段となります。
遺言内容によっては、相続人が不公平に感じることもあります。例えば、特定の相続人に多くの財産を遺す場合や、特別な配慮をする場合です。
このような場合、付言でその理由や背景を説明することが有効です。人生最後のメッセージとして、なぜそのような遺言内容にしたのかを詳しく伝えることで、相続人が納得しやすくなります。
おわりに
遺言書は、遺産分割に関するトラブルを未然に防ぎ、自分の意思を確実に伝えるための重要なツールです。この記事で紹介したように、遺言書を適切に作成することで、家族間の争いを防ぎ、円滑な相続を実現することができます。
遺言書を作成することは、自分の意思を明確に示し、残された家族が安心して暮らせるようにするための最善の方法です。遺言書の準備を進めることで、未来のトラブルを回避し、平和な相続を実現することができるでしょう。